品質最優先の企業文化の醸成を進めながら、私たちを取り巻く課題に高度な柔軟性を持って臨機応変に対応してまいります。

はじめに

昨年2月のロシアによるウクライナ侵攻により、ウクライナから作物の輸出が滞るなど貿易のバランスが大きく変化し、資源に乏しい日本ではエネルギーや食料品などのあらゆる価格が上昇しました。新型コロナウイルス感染症が蔓延する最中であり、私たちの生活にこれまでに例を見ないような大きな影響を及ぼしました。
当社を取り巻く経営環境としては、米国のインフレから米国の金利が大きく上昇し、日本との金利格差より大きく円安に傾く一方で、日本国内ではジェネリック医薬品の供給不足問題や、毎年の薬価改定などで、業界自体の先行き不透明感が増しています。また、気候変動への懸念や賃金格差の拡大、人種やジェンダーなど、サステナビリティに関連した課題への対応が求められています。
これらの状況は一見、逆風と思われるかもしれませんが、私たちはこれらの課題に高度な柔軟性を持って臨機応変に対応できると考えています。当社における現在進行中のCSRマテリアリティに関する取組みが、ステークホルダーの皆さまにとってどれだけの価値をもたらすかをご理解いただけるように、しっかりとコミュニケーションを深めていきたいと考えています。

経営課題への取組み

当社では、米国FDA(Food and Drug Administration:食品医薬品局)の査察への対応、ジェネリック医薬品の供給不足の解消と毎年の薬価改定の影響を最小限に抑える事業の開発を経営課題として認識し、早い段階から取り組んでまいりました。
1980年代より、品質を「競争力の源泉」と位置付け、業界では世界で最も厳しいと言われる、米国FDAの査察への対応を最重要課題として取り組んできました。1989年より2022年まで計11回(原薬・製剤の合計)のFDA査察を受け入れており、査察への対応及び査察時の指摘への是正を通じて、長年にわたり品質最優先の文化を社内で醸成してきました。
ジェネリック医薬品の供給不足問題は、今や社会問題にまで発展していますが、ジェネリック医薬品の使用促進策が軌道に乗ったころから兆候があり、当社では原薬と製剤の両面から製造設備の増強により供給量を増やす取組みを進めてきました。原薬ビジネスでは、国内での原薬MF*1登録数はトップ(2021年4月時点)を維持しているなど高い市場シェアを確保していると考えていますが、新工場の商用生産開始で更なるシェアの獲得を図っています。主要な医薬品メーカー等のお客様は、品質を重視した国内産原薬への回帰傾向にあり、当社が生産効率を上げ、高い品質の原薬を適時に供給し、それをより多くのお客様に安心してお使いいただくことが、ジェネリック医薬品の供給不足の解消に繋がるものと考えており、安定供給を目指しています。製剤においても、一連の設備の増強と2024年8月に商用生産を開始予定の新工場が本格稼働することで、ジェネリック医薬品の供給不足問題解決の一助になると考えています。
毎年の薬価改定については、薬価の影響を受けない、公的医療保険適応対象外の医薬品の受注活動を積極的に展開しています。政府は、「後発医薬品の品質及び安定供給の信頼性確保を図りつつ、2023年度末までに全ての都道府県で80%以上」とする新たな目標を掲げていますが、これと並行して、「自分の健康は自分でまもるセルフメディケーションの推進」を謳っており、公的医療保険適応対象外のOTC医薬品、医薬部外品の使用促進が今後の政策の焦点になると考えています。現在建設中の工場を含む当社の全ての医薬品製造設備が、これらの製造にも対応できるよう設計され、あるいは既に生産をしています。制度改革により、病気の予防や健康寿命の延伸へ公的助成制度が整備され市場が拡大した場合でも、広範なヘルスケア関連製品を柔軟に取り扱うことのできる当社の体制で十分に対応できると考えています。
また、高薬理活性製剤*2や新薬・長期収載品*3など市場での競争が比較的少ない品目を積極的に獲得し、研究開発投資、人的資本、設備投資を通じて経営資源を適切に配分することで課題を克服したいと考えています。

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3ヵ年中期経営計画2025の進捗状況と今後の成長戦略

2023年5月期の決算は、増収・減益となり上場以来13期続いた増収増益はストップしました。エネルギー価格の高騰や毎年の薬価改定に加え、円安による輸入原材料の調達コストが大きく増加したことが主な原因です。売上収益は、中期経営計画の連結売上目標に対して2.5%アップの451億円、営業利益は目標に対して15.7%アップの52億円でした。ジェネリック医薬品業界での品質不正に端を発した医薬品の供給不足は依然として続いていますが、当社においては通常の製造能力を上回るご注文にも柔軟に対応できたことで、売上目標の達成に繋がりました。
今後の大きな飛躍・成長に向けた経営戦略として、中期経営計画2023に引き続き中期経営計画2025に取り組んでいます。
中期経営計画の5本の柱のうち「③米国・中国を中心とした海外展開強化」においては、懸案であった米国向け、中国向けの承認取得の目途が立ち、本格的な販売に向けた準備を進めています。「④新技術・新領域への挑戦」についても若手リーダーたちが5つの新規プロジェクトを着実に進めています。
これら経営戦略の柱を進めるにあたり、厳しいビジネス環境の変化に対応するための生産部門、間接部門のロボット化、DX化の推進、M&Aを含めた新分野への参入検討など経営の効率化は必要不可欠であると考えており、取組みを進めてまいります。

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CSR経営について

当社は、2020年に持続可能な社会への貢献に関する視点、機関投資家のESG評価の視点、業種特有の課題に関する視点などを考慮し、SDGsの評価項目などを参考にして、重要な5つのCSR課題(マテリアリティ)を特定しました。
当社はCSR経営を成長戦略の一部と位置付け、当社の事業における重要度だけでなく、環境や社会課題に配慮した社会の実現、地域社会の発展、誰もがより良い未来に向けて活躍できる機会の創出に貢献することを目指しています。
特に、CSR課題である「医療費削減、患者負担軽減への取組み」は、同時に経営課題として述べたジェネリック医薬品の供給不足問題の解消と同義であると認識しており、当社のジェネリック医薬品の供給による2020年6月から2023年5月までの3年間の医療費削減効果(出荷ベース)は1,557億円となるなど全社をあげた取組みは、着実に成果をあげています。

また、2023年1月に公布・施行された「『企業内容等の開示に関する内閣府令』等の改正」が2023年3月期の有価証券報告書から適用される件に関して、現状を踏まえ、サステナビリティに対する当社の姿勢をこれまで以上に積極的に開示し、ステークホルダーの皆さまと共有したいと考えています。
主なCSR課題への取組み状況は下記になります。詳細は本報告書でご報告をしていますのでご参照ください。

  • 気候変動への対応
    TCFD提言を踏まえて当社の気候変動対応の情報を開示。
    本社工場に太陽光パネルを設置し再生可能エネルギーの利用を開始。
  • 水資源に関する管理活動の推進
    地下水の循環利用システムを導入し、地下水の取水を抑制する取組みを推進。
  • サステナブル調達の推進、人権の尊重、腐敗防止
    サステナブル調達ガイドライン、人権の尊重に関する方針、腐敗(贈収賄)防止指針・ガイドラインの策定完了。運用に向け取組み開始。
  • 従業員の能力開発・就業環境の向上(多様性の推進、人材育成)
    女性活躍の推進。
    各種研修や教育訓練を通じた人材教育を強化。

また、将来の世代が求める世界の姿に真剣に向き合い、積極的に未来を創造することで、当社自身も持続的に成長し、選ばれ続ける企業を目指してまいります。

おわりに

当社は、2023年5月期の決算で配当金60円を維持することができました。ひとえに皆さまの温かいご支援のお陰と、心より御礼申し上げます。
これに慢心することなく、時代の流れをよくみて新たな事業を開発するとともに、ステークホルダーの皆さまのご意見をよく聞きながら、注力すべき事業の軌道修正を柔軟に続け、企業価値の向上とサステナビリティ課題の解決に取り組んでいくことで、引き続き創業100年企業を目指し邁進してまいります。
今後ともステークホルダーの皆さまには、一層のご理解とご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

2023年8月29日

  • *1 原薬MF:「原薬等登録原簿」(マスターファイル)のことで、原薬等の製造業者が、製造方法や製造管理・品質管理に関する情報等を予め審査当局に登録する制度です。
  • *2 高薬理活性製剤:少量で人体に強い薬効を与える薬理活性が高い物質(体重1kgあたり約15μg以下で生物学的活性を有する/治療用量1mg以下)を成分にした医薬品で、抗がん剤などに代表されます。
  • *3 長期収載品:医療用医薬品で新薬として販売され、既に関連する特許が切れている、もしくは承認後の審査期間が終了し、同じ効能・効果を持つジェネリック医薬品が発売されている薬のことです。ジェネリック医薬品に比べて薬価が高く設定されているケースが多くみられます。